土佐錦魚訪問記 2005

私が実際に見学させて頂いた飼育家の皆様の飼育環境などを紹介します。
(写真はクリックすると拡大します)

取材させて頂いた皆様へ:見学させて頂いたばかりか、撮影およびHPへの掲載許可を頂き、ありがとうございました。

(ご本人の希望により、プライバシーに関わる部分には、表現や画像加工などで情報を制限しています)

丸鉢ライン

小川様(品評会入賞魚・冬囲い直前):H県F市(2005年12月3日)
 今回は、先月11月13日に東京で行われた第33回トサキン保存会の品評会の入賞魚の見学と、冬囲いの前の管理状況を見学させて頂きました。
 上の写真は、左から親魚2位、同7位(ガクト)、二歳7位、同9位の魚です。毎年の事ながら、O氏の所では品評会魚が、それも上位の魚を多数見ることが出来るので、非常に参考になります。
 当日は水温も低く、どの魚も本来ならば撮影も避けた方が良いのですが、氏のご厚意で、無理に洗面器に上げて頂きました。舟によってはすでに青水が十分に出来ているため、写真は少し見づらい物もありますが、雰囲気は十分に伝わるものと思います。
 上の左端の写真は三歳のガクトと二歳7位の魚ですが、どちらも褪色の遅い系統です。ガクトの方は秋に褪色が始まった後、寒さで再び黒く色が戻っているそうです。褪色時は特に体力を使いますので、この時期の品評会はガクトには不運だったようにも思いますが、来年も十分以上に期待できる魚です。
 二歳7位の方は腹部に赤い斑点が見られるので、このまま褪色は無く、黒い魚となるそうです。他の二歳の種魚にもガクトに似た顔や体位の黒い魚がいるのを見せて頂きましたが、幻の「黒の系統」の復活も間近かもしれません。
 今回の見学でも、抑え目に作る事の大切さを感じました。当歳も二歳も無理に大きくすること無く、抑える事で、鑑賞の期間(寿命)も伸び、形の崩れを招くことも少なくなるそうです。
 また、この時期の青水ですが、白い洗面器に当歳魚が2尾泳いでいる写真のものが理想的な状態で、プラ舟にぬめった褐色のコケを付けて越冬させないように、との事でした。ちなみに見え難いのですが、当歳魚は4位と14位の魚です。
 この冬は丸鉢の製作依頼が多く、先月末にも広島土佐錦魚の会の会員の方が10個以上持って帰ったそうですが、この日も作成中のものから乾燥中のものまで、10個前後が見られました。
 上の写真は二歳魚で、来春は種魚として活躍予定の魚だそうです。左2枚が雌、右二枚が雄ですが、何れも目を惹く特徴的なものを持っています。品評会魚は種親にも優れていますが、そこまでの魚ではなくても、どこか一点の優れた特徴を持つ魚も、十分に種親に使えるとの事です。
 種魚選びにもいくつかポイントがあるようですが、雌魚は体位、雄魚は尾が基本のようです。尾の良い雄魚でも体の太みのある魚の方がより良く、雌魚では多くの卵を産む大きな魚がいれば、多くの雄とのかけ合わせが可能となるので重宝するとの事でした。

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小川様(ガクト特集):H県F市(2005年9月18日)
 今回は、訪問した際に、50cmのホーロー洗面器で、じっくりと撮影ができましたので、ガクトの特集です。このガクトは、三歳となる現在も褪色しておらず、以前は「黒い秘密兵器」と称されていました。言うまでも無く2004年のトサキン保存会での二歳優勝魚で、高知に以前存在したとされる幻の「黒の系統」を復活させたとされる銘魚です。

 洗面器に上げてしばらくは水流に逆らってぐるぐると円を描いて泳いでいましたが、やはり泳ぎの安定感はずば抜けています。また、しばらくすると一転して中央付近で静かに決めていました。審査基準などでは「決める」ものが評価が高いと明文化されていますが、これほど均整の取れた決めの姿勢を保つ事は、体位と尾のバランスが絶妙であることの証明だと感じました。

 このガクトは雄魚で、今年初めての採卵となったそうですが、多く採卵できた事もあり、稚魚は全国に分譲されています。その時の掛け合わせの雌親が右上の素赤です。私もこの稚魚を分譲して頂きましたが、体型が特徴的で、他の稚魚とは一目で判別できるほどです。目先の尖りと太い尾筒、素早い泳ぎはガクトの血を色濃く見せているようですが、雌親も非常に大きな尾をしており、この仔魚には当然期待が大きくなります。

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小川様(稚魚編):H県F市(2005年7月2日)
 今回は再び小川さんを訪れ、この時期の稚魚の管理について見学させて頂きました。この日は豪雨の続いた2日目で、午後3時過ぎて雨が止んだ直後の様子です。
 上の写真は評判の昨年二歳優勝魚の仔です。この雨で餌を1日以上与えていない状態ですが、尾筒の太さと金座、後の大きさは際立っており、今までに見た事の無い驚きの稚魚です。孵化後7週目になりますが、大きさ別に何鉢にも分けての飼育で、写真は全て別の鉢から取り上げた別の魚です。左端の写真のように雨上がりの薄暗い中、魚影もぼんやりとしか確認できない状態で、全くの無作為に取り上げた3〜4尾ですので、これらの丸鉢全てにこのクラスのものが12〜15尾入っているという信じられない状態です。
 上の写真に続いて再び別の個体ですが、この兄弟魚の丸鉢には左端の写真のように金属片を入れ区別されていました。
 鉢のコケは、柄の無いステンレスのワイヤーブラシで、水換えの度に出来るだけ擦り取るそうですが、井戸水でもありすぐ生えてくるそうです。この状態でも十分にコケを食べていることが、左端の魚のフンを見れば分かります。
 とにかく、どの個体も上の写真のように際立った粒揃いで、通常であれば1腹から1尾出れば良いクラスのものが、(あれだけ多くを分譲された後にもかかわらず)、いまだに百尾近くも残っており驚愕です。
 この兄弟達は体の太みを尾筒の太さで支えて泳ぐ感じで、非常に泳ぎが上手く(早く)、右端のように尾肩を折って泳ぎます。
 あまりに、前述の兄弟魚達が際立っており、他の稚魚には触れませんでしたが、これらに見劣りをしないクラスのものも非常に多くありました。他の腹の魚を数鉢取り上げて見せて頂いた中には、左の写真のように、尾肩も前に張りはじめて、稚魚から「土佐錦魚の姿」になりつつある状態の成長の早いものもありました。

 最後に、右の写真はらんちゅうやナンキンではなく、背びれの無いトサキンです。以前O氏のHPで「背びれの全く無いものが極まれに出現する事があり、土佐錦魚がオオサカランチュウとリュウキンから作出された事の証拠」と書かれていましたが、このような魚を実際に見る事が出来ました。
 このような魚が出る年には良魚が出るというジンクスもあるそうですが、今年はこれだけの稚魚がいるので、このジンクスもすでに証明されているように感じました。

丸鉢ライン

小川様(餌の採集方法:H県F市(2005年5月15日)
小川さんの案内で、ミジンコの採集を行いました。この時は夕方4時ごろでしたが、もう少し遅い時間のほうが浮き上がってきているので良く採れるとの事です。池は河川の流入がある澄んだ貯水池で、水深は浅く岸周辺では1mも無い様な感じです。採集には竹ざおに観賞魚用のネットを取り付け、水中を4〜5回ゆっくりと往復させて掬い上げます。ネットを上げると塊になって採れるほどですが、あまり多くをバケツに入れると酸欠で死んでしまいます。長時間の輸送では、観賞魚の運搬や釣り用に電池式の小型エアーポンプなどが市販されていますのでこれを用います。この池ではほとんどが「ミジンコ:(Daphnia)」の発生でした。サイズも少し大き目で動きも早く、少し大きくなった稚魚に向くミジンコです。
持ち帰り泥と分離
続いてイトミミズの採集を行ないました。付近にはパン屋さんや飲食店、理容院などもあり、用水路にはそれらからの排水、生活排水なども流れ込んでいるようです。水はゆっくりと流れており、水路の底にはヘドロ状の堆積物が溜まっています。採集は柄付きの浅いザル(ステンレス製)をさおにくくり付けたもので、かたまり部分の泥ごと掬い取るようにして行います。この泥はかなり臭いので、持ち帰るときにはビニール袋でしっかり口を閉めて持って帰ります。泥との分離方法は前回の記事にありますので、そちらを参照して下さい。上の写真は右端が分離後のものです。

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小川様(産卵直前):H県F市(2005年4月17日)
主な設備
 ・舟(メインは80L)×約20個
 ・丸鉢×約60個
 ・貯水タンク:1,500L×2個
季節を変えて既に何度もお伺いしている小川さん(左端写真奥側)の所ですが、今回は春の産卵前の様子を見学させて頂きました。ガレージ上にL字型に膨大な飼育槽が配置されている金魚小屋ですが、日当たり風通しとも抜群の環境です。この時期はまだ、丸鉢は水のみが入った状態で放置され、明け二歳と親魚の舟が飼育スペースを多く取っていました。産卵に向けて、準備も完璧な様子で、もちろん病気などの発生は皆無です。期待の魚達は薄飼い(3歳で80Lに2匹という舟も)で十分に成長しており、昨秋より一回りは大きくなっていました。
親魚は、左端から、昨年のトサキン保存会二歳の優勝魚「黒い秘密兵器」、同二歳の4位を筆頭に、品評会上位入賞魚が絢爛の美を競っています。氏によると、土佐錦魚は「系統半分、創り半分」との事ですが、系統が前提で、その上に創りが意味を持つそうです。従って、かけあわせも「系統が良いこと」が前提条件であり、より良い魚を得るには「良い系統の良い魚」を親にして仔を採るのが確立もやはり高くなるとのことです。一般にO氏の系統と呼ばれる魚は、田中國衛さんの魚と高知の魚をもとに創り出したものだそうですが、目先と顔の尖り、尾付けできゅっと締まる逆三角形の腹型は特にこの系統の特徴です。
土佐錦魚は3歳で完成する魚ですが、この頃が一番きれいに思えます。褪色が遅い系統から良い魚が出やすいとの事で、小川さんの所の二歳はほとんどが褪色前ですが、さすがに3歳になると多くは褪色しているようです。右端の魚は高知の血がよく現れており、返しが特徴的です。
二歳は種用としてその多くを分譲した後でしたが、まだまだ多くの数が残っていました。左端の写真(大きいほう)は、昨年のトサキン保存会の当歳魚14位ですが、その順位を疑うほど素晴らしい魚です。今年はさらに良くなっており、期待が持てそうです。その他にも駄魚は全く見かけることが出来ず、皆粒揃いのそれぞれ光る特徴を持った魚ばかりです。尾はもちろんですが、「土佐錦魚は顔が悪ければ全てを失う」との持論を実践されている氏ですので、言葉通り皆素晴らしい顔と目先でした。
当日は遅くまでお邪魔してしまい、周囲が暗くなる中、金魚小屋には蛍光灯が灯され、お話を続けてお聞きすることが出来ました。左の二歳は素晴らしい魚ですが、まだ品評会には出していない魚だそうです。ほんの少しの油断で体調を崩したりすることもあり、土佐錦魚は気が抜けないとの事でした。また、創りについては丸鉢が重要で、緩やかなお椀型のものでも、その壁面角度により、あまり泳がず良いものが出来ない鉢となったり、目が細かく薄い鉢や十分に使い込んでない鉢では良いものは出来にくいとの事でした。写真は丸鉢のFRPの型(上・下)と使われている荒砂、完成した鉢の連結写真です。当日は完成した丸鉢を2鉢分譲して頂いたのですが、市販のものよりも重たく不用意に端を持つと若干かけるほどでしたが、重いほうが保温が良く、モルタルの量も限界まで下げているとの事で、こういった鉢がベストだそうです。また使い込んだ良い鉢を(水を張った状態で)手で軽くコンコンと叩かせて頂きましたが、高く軽い音がしました。右端の写真は2歳にミジンコを与えた所です。放任している丸鉢にはミジンコが湧いていて、毎日1すくいで数百匹(目測)を与えているそうです。
自家採集する場合のイトミミズの分離方法について教わりました。左端の写真は、泥ごと採集したイトミミズをひたひた位の水を加え1日以上放置したもので、酸欠で泥上に浮き上がって塊となっています。これをとリ分けて、5回以上水洗いして与えるそうです。保存はバケツで強いエアーレーションをかけて行うと1週間以上は十分に持つそうです。右端の写真は分離後のものですが、何キロあるかわからないほどの量です。採集したイトミミズは身が硬くしまった感じで、外見も太く長く動きが素早く、市販されている輸入物に比べると保存も長持ちし、活きが良いので消化も良いようです。採取は生活排水が流れ込むような浅く流れの少ないどぶ川で行なうそうですが、最近良い場所を見つけるまではやはり、入手が困難だったとのことです。このイトミミズのおかげで、氏の今年の魚は以前にもまして十分な腹と目先の尖りを得ているようでした。

丸鉢ライン

池本様(産卵前):広島県広島市(2005年3月30日)
池本会長 飼育環境1 飼育環境2 主な設備
 ・80L舟×4個
 ・180L舟×4個
 ・240L舟×1個
 ・丸鉢×6個
 ・FRP丸鉢×6個
 ・貯水タンク:300L×2個
池本さんは、自宅のビルの4F屋上で土佐錦魚を飼育されています。「広島土佐錦魚の会」の会長で、いつもお世話になっています。土佐錦魚の飼育は7年目だそうですが、その以前にはらんちゅうも飼われていたので、情報網も幅広く、色々と工夫された飼育をしています。夏場は丸鉢と舟の配置換えを行なって、日当たりの良い場所を当歳魚の育成にあてるのだそうです。
親魚更紗 親魚黒 親魚素赤 親魚小窓
親魚は色々なタイプがいます。皆非常に優れた特徴を持っており、このかけ合わせが大切だと言われていました。理想の土佐錦魚を創るには、やはり良い種親を持つことは大切だと思います。産卵シーズンを目前にして、調子も万全で、餌を求めて寄って来る姿はやはり良いものです。
明け二歳土佐未ちゃん 明け二歳 明け二歳舟 明け二歳2
こちらは明二歳です。左端は、会長さんのウェブログ「土佐錦魚のひとりごと」の主役「土佐未ちゃん」です。小柄ですが目先、腹型、尾の張りと大きさが際立ったバランスの良い魚で、私も個人的に会長さんの明二歳の中でも一番好きなタイプです。続いては、昨年の広島土佐錦魚の会の優勝魚です。昨年よりずいぶんと細くなっていますが、おかげで泳ぎは非常に安定しています。雄なのかもしれません。他にも多くの明二歳がいましたが、すべて褪色前でした。土佐錦魚の良い魚はやはり褪色は遅くなるようです。
餌やりの様子 ミジンコ培養の舟 当歳魚の舟
左端の写真は、3歳以上の雄で、昨年発情が非常に遅くなり、かけ合わせが思い通りにならなかったため、今年はヒーターを入れて発情を促して調整しているそうです。また、餌にも非常に気を使われており、人工飼料(アユソフトなど)にも発酵資材などの添加を試行されていました。人工飼料は、酸化が早いため、冷蔵庫で密封保存し、出来るだけ早く使い切るようにされているとのことです。他にミジンコも80Lの舟で自家繁殖されていました。また、屋上飼育の大敵はカラスで、金網で覆っていても、毎年何匹かは取られるそうです。しかも良い魚から・・・。

丸鉢ライン

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