土佐錦魚訪問記 2007

私が実際に見学させて頂いた飼育家の皆様の飼育環境などを紹介します。
(写真はクリックすると拡大します)

取材させて頂いた皆様へ:見学させて頂いたばかりか、撮影およびHPへの掲載許可を頂き、ありがとうございました。

(ご本人の希望により、プライバシーに関わる部分には、表現や画像加工などで情報を制限しています)

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大賀様(品評会前):岡山県T市(2007年10月31日)
 大賀さん(写真左側)の飼育は、自宅屋上と車で10分程度離れたところの2ヶ所に分かれていて、合計すると丸鉢25個、コンクリートのたたき6面、プラ舟10個程度での飼育です。丸鉢を始め飼育容器には保温に色々と工夫をされていて、大きい容器でゆったりと少なく飼い、上品さを保ちながら無理なく大きくされていました。
 また、広いたたきで親魚や二歳魚が10尾も泳ぐ姿は圧巻で、観賞魚としての楽しみ方の原点に触れさせて頂いたように感じました。
 上の4尾は何れも親魚で、左から昨年の品評会二歳準優勝、二歳5位、親魚5位で、何れも太みは十分で顔の良さと尾の大きさは、写真の無い他のどの魚にも共通して見られる優れた特徴でした。
 ちなみに右端の素赤は雌魚で、私が4月の研究会で分譲に出していた魚との事で、ここまで良い魚に仕上げられた飼育技術には感嘆するばかりでした。

 大賀さんの魚は全てO氏の系統だそうですが、意識して掛け合わせなくても更紗が一定数出て来るそうです。素赤でも更紗でも大賀さんの魚は非常に色が濃いのには餌が影響しているそうです。
 上の素赤以降の5尾は二歳魚ですが、親魚と同様に非常に優れた魚が揃っていて、特に口から腹にかけての曲線が上品で、渡りの大きな張りの良い尾を持ち、素直に美しさを感じさせる魚ばかりでした。二歳のプラ舟ではコケを適度に残した管理をされていて、その一部には上部濾過槽もあり、水流が起きないように工夫をしつつ、夏場の換水を数日伸ばす効果が期待できるそうです。
 大賀さんは以前には鯉や熱帯魚も飼育されていたそうで、土佐錦魚飼育ではタブーとされている飼育管理も試されていて、実践の結果一定の効果を認めた上で導入をされています。
 丸鉢の中央上部での軽いエアレーションもその一つで、飼育尾数を多く保ちながら夏場のえらめくれを防ぐために有効との事でした。
 下の写真は左から3尾が当歳魚で、こちらも太みは十分で、サイズはやや大き目ながら荒れた感じは出ておらず、若さを失っていない感じでした。
 ちなみに一番左側の魚は、先日行なわれた関西土佐錦魚保存会で、当歳中の部で優勝した魚との事でした。
 また右下端は、今回無理を言って譲って頂いた四歳雌魚で、来年の産卵では5歳となりますが、非常に体調良く健康に管理されていた事がわかる魚で、見た目にも泳ぎも非常に若々しく、うちへ持ち帰った直後から元気に餌を求めてくるほどでした。

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小川様(梅雨時期の稚魚編):H県F市(2007年7月22日)
 前回の研究会での見学から1ヵ月後の訪問で、今回は梅雨時期の稚魚の管理と将来性の見方などについてが主な話題となりました。
 梅雨時期にも関わらず、また稚魚の餌に鮎餌(2号)を用い、イトミミズを使わない条件でこの顔の良さにまず驚きでした。
 小川さんの鮎餌のみによる稚魚の給餌方法は3年目となりますが、毎年この時期の稚魚を見学していると、年を追って明らかに稚魚の顔が良くなっており、氏の系統としての長所に磨きがかかっているのは確かですが、合わせて稚魚の鮎餌給餌技術も上がっているように感じました。
 上の写真右2枚はガクトの仔で、ともに目先の鋭さは抜群で、さらに左は「すでに品評会魚」で尾が非常に大きく、右は「今は平凡な魚」と言われていましたがサイズ的にもこれから数週間先の伸びさえ期待させるバランスの良い魚です。
 また、氏の稚魚は非常に良く泳いでいて、会話の最中にも丸鉢の中でぐるぐると群れを作って泳ぐ姿が印象的でした。
 そのため、稚魚は尾を後ろに流して絞った状態で泳ぎも速く機敏で、止まるとふわっと開く理想の尾型になっていました。
 上の写真左二枚はそれぞれ左が比較的静止時に近い状態(止まる事がほとんど無く、常に泳いでいるので・・・)、右が泳いでいる時の姿で、それぞれ同一魚の写真です。
 右の2枚もガクトの仔で、どれも非常に魅力的な姿で、欠点があっても処分できないほどの資質を見せています。
 上の写真の褪色の2尾は二歳魚で、このところ急にサイズアップしており、尾もさらに大きくなって迫力が増しています。
 素赤の3歳魚は、昨年のトサキン保存会(池袋で開催:うちの本部)の二歳優勝魚で、褪色終了直後ですが、これからまだまだ色が濃くなりそうな雰囲気で、尾もさらに大きくなっていて、今年の品評会も期待が出来そうに見えました。

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泉様(冬眠明け直後):愛知県日進市(2007年3月13日)
 泉さんは自宅であるいずみ動物病院の2F屋上で飼育されています。飼育場は、露天の部分と、波板の屋根で半温室になっている部分がありますが、露天部分は当然水温が低く推移するので、こちらの舟の青水の方が濃い色をしています。ただ、真冬もあまり濃い状態ではなく、あくまでも薄い青水で、換水を行なって調整されているそうです。
 写真は左から2枚目が、昨年の「トサキン保存会第34回品評会」の親魚第4位の魚です。理想的な太みのある体型と大きな後ろと反しで、際立って魅力的な魚でしたが、その他にも皆、体型と顔の素晴らしさは共通していて、さらに加えてそれぞれ優れた特徴を持つ魚が残されているようです。

 右端の魚は、親骨がまだ極まっていませんが、化ける可能性も十分にある魚だそうです。泉さんの魚は晩成タイプで、3歳以降で勝負するタイプだと言われていました。
 左端の2尾は欠点があり種用との事でしたが、この体型でありながら非常に大きな後ろを持っています。中の2尾は際立って太い体で、こういう魚がいるからこそ、良魚が継続的に出来るのだと感じました。右端は体長が約20cmの非常に大型の雌魚で、大きくなる系統を保存するために残しているとの事でした。
 左の素赤に代表されるように、泉さんの系統の魚は共通して非常に綺麗な体型をしています。顔の尖りが良いため、棗型というより、二等辺三角形の鈍角の2つの角を丸くしたような腹型で上品な印象をひきたてています。
 この数日の寒波の再来もあって、当日の舟の水温は10℃で、冬眠明けには寒い日でした。水はごく薄い青水が多いようですが、明け二歳の舟ではほぼ更水のものが主体でした。
 水は水道水を1日以上汲み置いて使い、特にエアーは入れず、日にさらしている感じです。舟は80Lが主体で50個以上もありそれぞれエアーが入っています。また、丸鉢も同じ位の数で、舟と丸鉢には給水の配管が飼育槽毎へ整然と並んでいるのが印象的でした。
 上の写真の左2枚はO氏のガクトの子だそうです。左の素赤にはその太さに、白勝ち更紗にはその色にまず驚かされました。泉さんの飼育方法では体型が丸くなりやすいそうで、やはり飼い方によって大きく変わる土佐錦魚の不思議を感じさせられます。
 右の褪色前の魚は、明け二歳で、思いの他黒い魚が多く居たのが意外でした。泉さんも血の交流を積極的に行なって自分自身の理想のタイプを創ろうとされているため、褪色の遅い系統の血をひくものが増えて来たためだとの説明でした。おかげで尾が大きくなってきたそうです。
 泉さんの土佐錦魚は晩成型なので、3歳で急に尾が大きくなるタイプなどもあるため、癖の無い素直な魚はとにかく残しておくのだそうです。そのためには、飼育設備の規模はどうしても大きくならざるを得ないため、土佐錦魚はやはり難しい魚だとの事です。
 また、泉さんの魚は更紗が非常に多く、全体的に赤のはっきりした色の濃いものが多く見られます。あわせて褪色の早いものも必ず出るため、舟の中は非常に賑やかな印象でした。
 上の左端の写真は、素焼きの植木鉢の底にモルタルで排水栓を固定した泉さんの自作丸鉢で、これが一番のお気に入りだそうです。直径は丸鉢と同じく約60cmです。
 その他にも、自らが中部の会長をされているナンキン(写真左下の洗面器の魚は、昨年の島根の大会で歴史上初めて県外に優勝カップをさらった魚)や、らんちゅう(昨年の日蘭で入賞するほどの結果)も素晴らしい魚が泳いでいました。
 右端は背鰭の無いトサキンで、明け二歳です。背びれがあれば、かなり良い土佐錦魚だったはずだと思います。この魚を見ていると、「上見の魚は背びれが無い方が美しい」とするらんちゅうやナンキンの感覚も一理あるなという気がしました。

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